第10話 「エイサラ、エイ」

 照手が、いつものように参拝して店の前までもどると人だかりを見つけました。
「なんてみにくい姿なんだろう」と人々の声が聞えてきます。
 餓鬼阿弥は、この世のものとも思われない姿だったので、それを見た人は気味悪がって遠まきに見物するだけで、誰も近づこうとしません。
 照手も、餓鬼阿弥を見て、はじめは「気味が悪い」と思いましたが、
 そのうち、みんなから冷たい目で見せ物になっているのをかわいそうに思えてきました。
 そこで勇気をもって近づいていくと、首から下げた木礼が目につきました。
 そこには、「私をくまの熊野に連れてって」と書かれています。よく見てみると、餓鬼阿弥は何かをうったえようとするかのようです。照手は、その姿に心が痛むと同時に、何か懐かしいあたたかいものを感じました。その時、また観音様の声がきこえてきました。
「あなたのやさしさをこの世の弱い者へ向けなさい」照手は決心しました。すぐに回りにいる人々に観音様のお告げを話して「皆で力を合わせてこの人を助けてあげましょう!」と呼びかけました。萬屋の主人から五日のひまをもらってどぐるま土車を引いて行くことにしました。さあ熊野へ出発です。皆で力を合わせ土車(どぐるま)を引きます。
「エイサラ、エイ!」その掛け声は街中にひびきわたります。

 

 

 

 

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